上顎臼歯部へのインプラントの際に問題となるのは、インプラントを埋入するのに必要な垂直的骨量が不足する場合があります。上顎臼歯部の上方には上顎洞という副鼻腔が存在し、歯を喪失すると同時に含気化等のさまざまな要因により上顎洞側と口腔側から骨量が減少します。この際に必要になるのがサイナスリフト(上顎洞底挙上術)です。
サイナスリフト は 上顎洞 の頬側骨壁を開窓し、 上顎洞 粘膜(シュナイダー膜)を 上顎洞 底から剥離して挙上します。そしてその挙上によってできたスペースに骨補填材や他部位から採取した自家骨等を移植し、これによりインプラント埋入手術に必要な垂直的骨量を確保する術式です。
このほかにソケットリフトという術式がありますが、これはインプラント埋入の際に形成したドリルホールから上顎洞底をノミで槌打することにより上顎洞底を骨折させ、 上顎洞 粘膜を持ち上げることによりその先端部に骨移植をするという方法です。 ソケットリフト は、外科的な侵襲は確かに少ないのですが、平均して10ミリ以上の 骨造成 が達成できる サイナスリフト に比べ、平均3~4ミリ垂直的造成しか望めないことや、術野が見えないブラインドテクニックの術式であるという欠点があります。

最近では PRF ( Platelet Rich Fibrin :多血小板フィブリン) ) を使用することにより、骨の造成期間を短縮できる様になりました。患者自身から 10 ~ 20cc 採血し、遠心分離器にかけて血小板を濃縮させた成分と、フィブリンが多い成分に分けます。この際抗凝固剤などを一切添加せず、自己由来のフィブリノーゲンを凝集させ、ゆっくりとフィブリンをゲル状に固まらせます。

ゲル状のPRFは固まる時、その中に血小板サイトカインとグリカン鎖を大量に取り込むため、骨造成部ではゲル状のPRFから 2 ~ 3 週間かけて徐々にサイトカインが放出されます。サイトカインには3つの前炎症サイトカイン・抗炎症サイトカイン・血管形成の成長促進因子が含まれ、手術後の感染を抑制できます。組織にたいする基本的作用は瘢痕形成です。つまり血管形成の促進・免疫制御 ( 感染抑制 ) ・循環幹細胞の捕獲 ( 組織の再建 ) ・創傷を被覆する上皮形成 ( 傷口閉鎖 ) がその作用です。

この PRF は膜状にすることも可能で、今まで使用されてきた人工の吸収性メンブレンの代わりにも使用でき、ソケットプリザベーションや創傷治癒促進に有効であると思われます。

下図はインプラント埋入と同時にサイナスリフトを行い、 PRF と自家骨を移植した症例です。

※岡田歯科医院は平成26年に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」による厚生労働省届出医療機関(施設番号FC3180107)です。

遠心分離後の PRF ゲル状の PRF
サイナスリフト部にPRFと自家骨を移植 膜状にした PRF